結論:「可処分所得が少ない」という問題を、追加徴収で解こうとする矛盾がある
少子化の背景には、未婚化、晩婚化、住宅費、雇用不安、長時間労働、育児負担、価値観の変化などがある。金だけが原因ではない。
それでも、結婚や出産を迷う世代の手取りを減らし、その金を行政や事業者を経由して一部の子育て世帯へ戻す構造には明確な矛盾がある。
2026年度から始まった子ども・子育て支援金は、被用者保険では標準報酬月額に0.23%を掛け、原則として労使折半する。税という名称ではなくても、本人の給与と企業の人件費から出る以上、可処分所得や賃上げ余力に影響する公的負担である。
政策の流れを単純化すると、次のように見える。
- 若い世代は手取りが少なく、結婚・出産が不安である
- その世代と雇用主から追加で徴収する
- 国・自治体・制度運営・委託事業を経由する
- 一部を児童手当、育休給付、保育などとして返す
必要なサービスはある。しかし、徴収・申請・審査・委託・報告の各段階には事務費が発生し、制度が複雑なほど未申請や利用格差も生まれる。少子化対策なら、まず「取らずに残す」「自動で直接渡す」方法と比較すべきである。
こども家庭庁の7.5兆円を出生児だけに割ると約1,117万円になる
2026年度のこども家庭庁予算案の総額は7兆4,956億円だった。2025年の日本人出生数は67万1,236人、合計特殊出生率は1.14だった。
単純に割ると、
7兆4,956億円 ÷ 67万1,236人 = 新生児1人あたり約1,117万円
となる。「約900万円配れる」という話は、別年度の予算と出生数を使った概算としては不自然ではない。
ただし、この計算をそのまま政策案にしてはいけない。予算の大部分は、現在すでに存在する児童手当、保育所運営、育児休業給付、病児保育、障害児支援、虐待対応、ひとり親支援などを含む。全額を新生児へ配れば、今いる子どもと家庭へのサービスが消える。
この割り算が示すのは、「庁を廃止すれば全額浮く」ことではない。子ども政策全体で使っている金額の規模を、受益者一人当たりへ置き換えると非常に大きいということだ。
だから問うべきなのは、
- 現金で直接渡す部分はいくらか
- 保育・医療・福祉として現物給付すべき部分はいくらか
- 行政管理・広報・調査・委託にいくら使うか
- 各事業が出生、貧困、就業継続、子どもの安全のどれを改善したか
である。
高齢者支援は「年齢」ではなく、所得・資産・生活困難で決めるべきである
年金本体は、保険料納付に対応する社会保険上の権利であり、単純に取り上げるべきではない。また、年金が月10万~13万円程度で、家賃や医療費を払えば生活が厳しい人もいる。
一方で、高齢者というだけで一律に追加給付や低負担を適用し、現役世代から財源を取る設計が常に公平とは限らない。所得が低くても、多額の金融資産や不動産を持つ場合もある。逆に若くても、低所得、病気、障害、ひとり親などで支援が必要な人はいる。
したがって、追加支援は、
- 年齢
- 現在所得
- 金融資産
- 居住資産
- 家賃・医療・介護など不可避の支出
- 扶養状況
を総合して決める方が合理的である。
最低保障は厚くする。しかし、生活できる人への追加優遇は抑え、その分を子ども・若年層・困窮者へ回す。これは高齢者切り捨てではなく、年齢基準から必要性基準への変更である。
直接給付は、行政をゼロにする案ではなく、経路を短くする案である
保育園、病院、学校、児童相談、障害福祉には人と組織が必要である。すべてを現金にして家庭へ丸投げすれば、必要な供給がなくなり、親の負担が増える。
その一方、現金で解決できる部分まで企業補助や短期キャンペーンへ変換すると、本人に届く額が分かりにくくなる。事業者が補助分を価格へ織り込む可能性もある。
より良い設計は、
- 生活費・養育費は本人へ自動給付
- 保育、医療、教育、障害・虐待対応は公共サービスとして確保
- 委託事業は単価、管理費、成果指標を公開
- 同じ目的の小規模事業を統合
- 申請主義を減らし、出生届や税・社会保険情報から自動適用
という分業である。
少子化対策で最初に守るべきなのは、制度の数ではない。子どもを持つ前後の世代の手取り、時間、雇用、住宅、生活の安定である。
