結論:従来の少額給付より強く効く可能性はあるが、同規模の実証例はない
子ども1人につき、成人までの養育費として2,000万~3,000万円を国が保証する。これが本当に実施されれば、従来の出産一時金や月数万円の児童手当とは別物である。
2025年の出生数67万1,236人を前提にすると、年間に生まれる子どもへ権利を付与する総額は、
- 1人2,000万円:13兆4,247億円
- 1人3,000万円:20兆1,371億円
になる。18年間で均等に払うなら、子ども1人につき月約9万2,600円、または月約13万8,900円である。
これは現在のこども家庭庁予算の約1.8倍~2.7倍に相当する。単なる無駄削減だけでは作れず、年金、医療、税制、企業補助、教育、住宅を含む国家的な再配分が必要になる。
それでも、この規模なら「子どもを持つと家計が大幅に悪化する」という予想を根本から変える可能性がある。特に、希望する2人目・3人目を経済的理由で諦める家庭には強く効くだろう。
ただし、この規模の全国的な直接給付を行い、長期出生率を測定した国はない。したがって「必ず2.1へ戻る」「必ず爆発的に増える」とは研究上いえない。
研究では、現金給付は出生を増やすことがあるが、効果は一時的・不均一である
1970年以降の実験・準実験研究35本をまとめた2021年の系統的レビューでは、公的保育の拡充は最終的な子どもの数を増やす比較的強い証拠があり、大規模な育休拡充にも持続的効果がみられた。一方、現金給付の効果は大きくても一時的になりやすかった。
イスラエルの児童手当変更を使った研究では、平均的な限界児童手当が出生を約7.8%増やしたと推計された。所得や宗教集団によって反応は異なるが、「金銭的誘因はまったく効かない」という主張は正しくない。
ポーランドのFamily 500+を分析した2024年の研究でも、短期的に出生確率が上がった層は確認されたが、年齢や所得によって結果は混在した。現在のFamily 800+は、18歳未満の子ども1人につき月800ズロチを所得制限なしで給付している。貧困軽減や家計支援には意味があるが、国全体の出生率を人口置換水準まで戻してはいない。
OECDは、家族向け現金給付の出生率効果は概して小さいか一時的で、保育、育休、女性の就業継続、住宅費、男女の育児分担を一体で扱う必要があると整理している。
海外の「成功国」も、現金だけで成功したわけではない
2022年のOECDで人口置換水準を上回ったのはイスラエルだけで、出生率は2.9だった。しかし、これは児童手当だけでなく、家族規範、宗教集団、不妊治療支援、社会的な子ども志向などが重なった結果である。日本が現金だけをコピーして再現できるとは限らない。
フランスは保育、税制、給付、育休を組み合わせ、長く欧州上位を維持したが、2024年の出生率は1.61まで下がった。EU平均1.34より高いものの、政策で低下を完全に止めたわけではない。
ハンガリーも住宅補助、税優遇、融資、債務免除を組み合わせて一時的に改善したが、2.1へは届いていない。これらが示すのは、政策は低下を緩めたり一部の出生を後押ししたりできるが、現代社会の出生率を単独で完全に制御できないということだ。
2,000万~3,000万円を配るなら、一括現金より「子どもの権利」にする
一括で親の口座へ2,000万~3,000万円を振り込むと、出生直後の流動性は高まる一方、短期消費、詐欺、家庭内支配、離婚時の取り扱い、給付を前提とした価格上昇などのリスクがある。
現実的には、出生届と同時に子ども単位の権利を発生させる方がよい。
例としては、
- 妊娠・出産・育休期に初期給付
- 0~18歳まで毎月の基礎給付
- 保育・教育・医療は別枠の現物給付
- 住宅、教育、障害、ひとり親には追加給付
- 一部を子ども名義の積立へ入れ、成人時に移管
- 離婚や親の失職後も子どもの権利として継続
という構成である。
重要なのは、選挙ごとに金額が変わる一時金ではなく、出産前から信頼できる恒久制度であることだ。将来の給付が信用されなければ、出生判断には織り込まれない。
最も勝率が高いのは、直接給付と生活基盤をセットにすること
研究から組み立てられる政策パッケージは、次のようになる。
- 若年・子育て世代の社会保険料負担を軽くする
- 子ども1人ごとの長期給付を自動で直接支給する
- 保育、病児保育、学童、医療、障害支援の供給量を確保する
- 育休による所得低下と出産後のキャリア損失を補償する
- 家族向け住宅の供給と家賃負担を改善する
- 長時間労働を減らし、父母双方が育児時間を持てるようにする
- 高所得・高資産層への年齢一律の追加優遇を見直す
- 外国人受け入れ、自動化、都市集約を進め、出生率回復だけに制度維持を賭けない
少子化対策の目的は、国のために子どもを産ませることではない。子どもを持ちたい人が、金・時間・仕事・住宅のために断念しなくて済むようにすることである。
2,000万~3,000万円案は、研究で効果が確定した完成品ではない。しかし、少額給付を増やしながら同じ世代から追加徴収する現在の構造より、問題設定は明確である。
必要なのは「支援事業を増やした」という行政上の成果ではない。
子どもが生まれても家庭が赤字にならず、親の人生と子どもの生活が壊れないという、長期の保証である。
