ラーメンを食べている。
店内には普通の有線放送が流れている。
次の曲が始まる。
淫夢厨A「……ん?」
淫夢厨B「おい待てぃ」
一般客「?」
店員「?」
そして聞き覚えしかない空気が店内を包む。
淫夢厨「ファッ!?」
店「USENですけど……」
これが面白い。
でも、面白い理由は単に「淫夢の曲がラーメン屋で流れたから」ではない。
むしろ逆だ。
淫夢を知っている人ほど、公共の場で堂々と流すのをためらう。なのに何も知らない店だけが、ただのヒット曲みたいな顔をして堂々と流している。
ここが本体である。
1. まず事実:INMU KINGは本当に一般チャート側まで来た
2026年9月25日〜10月1日のORICON週間YouTubeチャートで、「INMU KING / YAJU-MC」は2位、3,866,043回を記録した。
もう「ネットの片隅で淫夢厨だけが見ている動画」では数字上なくなっている。
しかもUSENの公式「週間 USEN HIT J-POPランキング」は、USEN音楽放送のオンエア実績やリスナーからのリクエストなどを基に、上位曲と注目曲を流す番組だ。
ただし、ここは大事なので810回言う。
「ORICONで2位になったからINMU KINGが自動でUSENに入った」と確認できたわけではない。
INMU KINGがUSENの公式ランキングに入ったことも、今回確認できた公式情報だけでは断定できない。
だから、
《オリコン2位》 ↓ 《USENが自動採用》 ↓ 《全国のラーメン屋で強制田所浩二》
みたいな一本線にはしない。
それはそれとして、実際に「入ったラーメン屋でINMU KINGが流れていた」という目撃談はネット上に出ている。
なんだこれは……たまげたなぁ。
2. 知ってる奴ほど流せない、知らない奴ほど流せる
ここが一番草が生えるところ。
淫夢を知っている人が自分の店でINMU KINGを流すなら、多少は考える。
「客層大丈夫か?」 「元ネタ知らない人いるよな?」 「これ俺が選んだと思われる?」 「職場で淫夢厨バレするの嫌なんだよなぁ……」
つまり、知識がブレーキになる。
ところが店側が元ネタを知らず、USENや自動選曲で流しているだけなら、そのブレーキが存在しない。
店「最近の人気曲なんだな。ヨシ!」
淫夢厨「ヨシ!じゃないが」
店「何か問題でも?」
淫夢厨「あっ……ないです」
これもうわかんねぇな。
一番元ネタを理解している客が縮こまり、一番何も知らない店が一番堂々としている。
知識量と堂々さが完全に反比例している。
この逆転が強い。
3. 「淫夢厨だ!」と勝手に仲間認定される店
さらに面白いのが、店は何もしていないのに人格が生えることだ。
店「有線を契約しています」
客「INMU KING流れてる!」
客「この店、淫夢厨だろ」
店「違います」
客「またまた」
店「本当に知らないです」
客「あっ、ふーん(察し)」
否定しても終わらない。
むしろ「知らない」という説明自体が面白さを増やす。
もし店主が本当に淫夢厨で意図的に選曲していたら、それは普通のネタ店である。
でも、
何も知らない店が、何も知らないまま、淫夢厨より堂々と淫夢曲を流している。
この無自覚さが完成度を上げる。
その結果、ネットで
《あのラーメン屋INMU KING流れてて草》 《店主やりますねぇ!》 《行ってみたい》 《ありがとナス!》
と勝手に話題になる。
広告費0円。
店「何で客増えたんだ……?」
ネット「いいゾ〜これ」
4. 笑いの正体①:観客だけが知っている「知識の差」
これは古典的な「観客だけが事情を知っている」タイプの笑いに近い。
店員は普通に仕事をしている。
一般客も普通に麺をすすっている。
しかし淫夢厨だけは、
「この空間でこれ流れてるのマジ?」
という追加情報を持っている。
同じBGMなのに、頭の中の意味が違う。
一般客: 「なんか最近の曲」
店: 「店内BGM」
淫夢厨: 「公共空間に出していいんですかね……?」
この情報の非対称が笑いになる。
しかも店に悪意も狙いもない。
だからツッコミ先がない。
淫夢厨「止めろ!」
店「なんで?」
淫夢厨「説明すると俺が死ぬ」
詰みである。
5. 笑いの正体②:「ヤバそう」と「別に害はない」が同時にある
ユーモア研究には、McGrawとWarrenの「benign violation(無害な違反)」という考え方がある。
ざっくり言えば、
「ちょっとルール違反・場違い・ヤバそう」なのに、同時に「まあ実害はない」と感じると笑いになりやすい。
ラーメン屋INMU KINGはかなりこれに近い。
淫夢厨の脳: 「いやこれ元ネタ考えたら公共BGMとしては場違いだろ!」
現実: 「でも流れているのはただの楽曲で、客は普通にラーメン食ってるだけ」
危険ではない。
事件でもない。
ただ文脈だけがおかしい。
だから、
「おい待てぃ」 ↓ 「でも誰も困ってない」 ↓ 「じゃあ草」
になる。
まさに場違いなのに平和。
6. 笑いの正体③:ネットの地下室が急に現実へ出てきた
淫夢文化は長いあいだ、「知っている人には説明不要、知らない人には説明しづらい」タイプのネットミームだった。
それが普通の音楽ランキングへ入る。
さらに店内BGMで流れる。
すると、ネット内で成立していた文脈が、ラーメン屋、商業施設、一般客という別の文脈へ一気に重なる。
これは「context collapse(文脈の崩壊・混線)」に近い現象として見ると分かりやすい。
本来、
《淫夢を見る場所》 と 《昼飯を食う場所》
は別だった。
それがUSEN一発で、
同じ空間になる。
淫夢厨「棲み分けとは?」
USEN「知らん、流すぞ」
店「なんか人気みたいですね」
淫夢厨「やめてくれよ……(歓喜)」
7. 「淫夢厨バレを恐れる淫夢厨」と「何も恐れない一般店」の対比
このネタが妙に強いのは、淫夢文化側に昔から“詳しいこと自体がちょっと恥ずかしい”という自己ツッコミがあるからでもある。
語録を即座に理解する。
元ネタを当てる。
人物を識別する。
そして詳しければ詳しいほど、
「なんでそんなに詳しいんですかね……?」
が自分に返ってくる。
だから淫夢厨は公共空間ではしばしばステルスする。
ところが一般店にはその羞恥がない。
知らないから。
淫夢厨:知識100、堂々さ20
店:知識0、堂々さ100
強い。
店の圧勝である。
8. だから「店が淫夢厨」より「店が知らない」方が面白い
ここを逆にすると笑いが弱くなる。
店長「俺、淫夢大好きなんすよ。だから毎日INMU KING流してます」
これは分かる。
意図と結果が一致している。
でも、
店長「え? 何ですか淫夢って?」
店内「♪INMU KING」
客「ファッ!?」
になると、急に面白い。
本人だけが自分の店で何が起きているのか知らない。
そして詳しい客ほど説明したくない。
店長「この曲、何か有名なんですか?」
淫夢厨「知らない方がいいっすよ」
店長「?」
淫夢厨「そのままでいてくれよな〜頼むよ〜」
これが完成形。
9. 結論:淫夢が一般化したから面白いのではなく、「一般側が意味を知らずに踏んだ」のが面白い
INMU KINGがチャート上位へ来たこと自体も異常な光景ではある。
しかしラーメン屋USENの笑いの核心はそこだけではない。
淫夢厨は元ネタを知っているから公共空間で一瞬ためらう。
一般の店は元ネタを知らないから何もためらわない。
結果、一番慎重な淫夢厨の目の前で、一番無垢な店が一番堂々と淫夢を放送する。
これである。
店「ただのUSENです」
淫夢厨「そうですね」
店「人気曲みたいですね」
淫夢厨「そうですね」
店「いい曲ですね」
淫夢厨「……そうですね」
心の中:
ファーーーーーッ!?
そしてSNSに書く。
《ラーメン屋でINMU KING流れてて草》
店には新しい客が来る。
店「最近なぜか若い客増えたな」
淫夢厨「やりますねぇ!」
店「ありがとうございます」
淫夢厨「ありがとナス!」
店「ナス……?」
終わり。
参考資料(4件)
- ORICON NEWS「週間 YouTubeチャート 2026年09月25日~2026年10月01日」:INMU KING / YAJU-MC 2位、3,866,043回
https://contents.oricon.co.jp/rank/yt/w/2026-10-01/ - USEN MUSIC GUIDE「週間 USEN HIT J-POPランキング」:オンエア実績、リクエストデータ等を基に構成
https://music.usen.com/ch/A26 - McGraw, A. P. & Warren, C. (2010), “Benign Violations: Making Immoral Behavior Funny,” Psychological Science
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20587696/ - Marwick, A. E. & boyd, d. (2011), “I tweet honestly, I tweet passionately: Twitter users, context collapse, and the imagined audience,” New Media & Society
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1461444810365313
