「安いモデルを選んだのに20分溶けた」──CodexのGPT-6 Luna

AIコーディングのモデル選びで、いちばん危険なのは「1回の単価だけ見て安いモデルを選ぶ」ことだ。

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「安いモデルを選んだのに20分溶けた」──CodexのGPT-6 Luna / Sol / Astraは何を選ぶべきか

AIコーディングのモデル選びで、いちばん危険なのは「1回の単価だけ見て安いモデルを選ぶ」ことだ。

1回10円のモデルが5回迷子になり、最後に「権限がありませんでした」で墓碑銘を残すなら、1回50円で最初から原因まで掘り当てるモデルの方が安い。

2026年9月、Codex周辺にはGPT-6 Astraに加えてGPT-6 SolとGPT-6 Lunaが入り、選択肢は急に増えた。問題は「最強はどれか」ではない。

どの仕事を、どのモデルに、最初から投げると完了コストが最小になるか。

ここを整理する。

1. 何が追加されたのか

OpenAIは2026年9月22日、GPT-6 SolとGPT-6 LunaをAPIへリリースし、ChatGPT WorkとCodexにも追加した。

GPT-6 Solは「複雑なコーディングとエージェント型ワークフロー」、GPT-6 Lunaは「焦点の絞られた大量処理」を主用途としている。どちらも1.05Mコンテキスト、最大128K出力を持つ。

その上にいるGPT-6 Astraは、OpenAIが「最も難しいend-to-end作業向け」と位置付けるモデルで、コーディング、コンピューター操作、調査、文書作成まで含む。

ざっくり言えば、

  • Luna:安い作業員
  • Sol:普段の主任
  • Astra:現場に入った瞬間「配線ここで逆ですね」と言う人

という配置である。

2. 「ChatGPTにGPT-6 Solが来た」の罠

ここはかなり紛らわしい。

ChatGPTの2026年9月22日リリースノートには、GPT-6 SolとLunaがChatGPT WorkとCodexに追加されたと書かれている。同時に、これらは通常のChatで利用できるモデルとは別だと明記されている。

つまり、

ChatGPTという製品に追加された と 普通のチャット画面のモデルとして追加された

は同じ意味ではない。

「ChatGPTに来たらしいぞ!」と通常チャットのモデルピッカーを掘り始めると、存在しない宝箱を探すRPGになる。

一方、Astraは9月初旬の発表でChatGPT各有料プランへの展開も案内されている。 同じGPT-6でも配布面が違うので、名前だけで判断すると混乱する。

3. 単価だけ見ると、差はえげつない

2026年9月23日時点のStandard API単価は以下。単位は100万tokenあたりの入力/出力。

モデル 入力 出力
GPT-6 Luna $0.10 $0.50
GPT-6 Sol $2.00 $10.00
GPT-6 Astra $10.00 $50.00
GPT-5.6 Luna $0.20 $1.20
GPT-5.6 Terra $2.00 $12.00
GPT-5.6 Sol $4.00 $20.00

同じtoken数なら、6 Solは6 Lunaの約20倍、Astraは6 Solの5倍である。

ここだけ見ると「全部Lunaでいいじゃん」となる。

それは、引っ越し費用を節約するために冷蔵庫を背負って徒歩移動するタイプの最適化である。

4. 100k入力+20k出力で簡易シミュレーション

同じ仕事が「100,000入力token+20,000出力token」で完了すると仮定する。キャッシュ、ツール料金、長コンテキスト割増、再試行は無視する。

モデル 1回の概算APIコスト
GPT-6 Luna $0.020
GPT-6 Sol $0.400
GPT-6 Astra $2.000
GPT-5.6 Luna $0.044
GPT-5.6 Terra $0.440
GPT-5.6 Sol $0.800

生tokenコストだけならLunaが圧勝する。

しかし本当に見るべき式は、

完了コスト ≒ 1試行コスト × 必要試行回数 + 人間の介入時間 + 失敗で失った文脈

である。

同一token量ならAstra 1回はSol 5回分。つまりSolが5回迷う仕事をAstraが1回で閉じるなら、API代だけでも同額になる。

さらに人間が毎回ログを読み直し、「そこじゃない」「前にも見た」を繰り返す時間まで入れると、逆転点はもっと早い。

5. 「高いAstraの方が安い」は本当に起きる

これは単なる想像ではない。

OpenAIのTerminal-Bench 4.0では、GPT-6 Astraが57.9%、GPT-5.6 Solが37.3%。しかもAstraは、比較された設定で推定APIコスト/タスクが約9%低かったと報告されている。

AutomationBenchでもAstra 41.4%対5.6 Sol 18.1%、内部DB migrationタスクでも63.9%対42.7%だった。

つまり、

単価が高い と 仕事が高くつく

は別物である。

Astraには、Codexの長時間セッションで過去のコンテキストを保持・検索する新しい仕組みも導入されている。複雑なデバッグや大規模リファクタで、「さっき失敗した理由を圧縮で忘れて同じ穴に再突入」が減る方向の設計だ。

高級タクシーは高い。しかし徒歩で山を三周してからタクシーを呼ぶよりは安い。

6. 実務では「安い順に試す」より先に分類する

おすすめは、Luna→Sol→Astraと毎回順番に失敗させる方式ではない。

仕事の形を見て最初から振り分け、1回の失敗で上へ上げる。

GPT-6 Luna向き

  • grep、一覧化、分類、定型変換
  • 明確な仕様の小修正
  • 大量の独立タスク
  • テスト実行と結果整理
  • 成否条件が機械的に判定できる仕事

GPT-6 Sol向き

  • 普通の複数ファイル実装
  • 原因範囲がある程度分かっているデバッグ
  • ツールを何個か使うエージェント作業
  • 調査→修正→テストまでの標準ループ
  • 日常のCodex主力

GPT-6 Astra向き

  • 何が壊れているか自体が不明
  • 複数サービス、権限、ネットワーク、状態管理を横断
  • 長時間デバッグ
  • migrationや大規模リファクタ
  • 「途中までは進むが最後だけ毎回死ぬ」
  • Solが1回きちんと調べても閉じなかった案件

特に最後のタイプは、安いモデルに追加で探索させると「探索量だけ増え、真相には近づいていない」というAI版残業が発生しやすい。

7. ではGPT-5.6 Terraはどうなるのか

料金だけ比較すると、GPT-5.6 Terraはかなり微妙な位置に入った。

Standardでは、

  • 5.6 Terra:$2 / $12
  • 6 Sol:$2 / $10

で、入力単価は同じ、出力は6 Solの方が安い。

さらに6 Solは新世代の複雑なcoding/agentic workflow向けモデルとして位置付けられている。

したがって、新規ワークロードで「とりあえずTerra」を選ぶ経済的理由は弱くなった。

もちろん、既存プロンプトとの相性、再現性、特定モデルで検証済みという理由は残る。モデル更新日は「昨日から古い」になり得るので、安定運用では性能だけで即全交換しない方がいい。

ただし新規設計なら、

Luna=大量・明確 Sol=標準 Astra=難物

の3段でかなり整理しやすい。

8. 本当の最適解は、自分の仕事で20件ずつ測る

ベンチマークは地図であって、会社の配線図ではない。

実運用ではタスクを3~5種類に分け、それぞれ20件ほど記録するとよい。

見る指標は、

  • 人間の追加指示なしで完了した率
  • greenになるまでの時間
  • 再試行回数
  • tokenまたは利用クレジット
  • 途中で人間が読んだログ量
  • 修正後の回帰バグ
  • 「結局別モデルに投げ直した」率

である。

このとき「1回いくら」ではなく、

成功1件あたりの総コスト 人間1分あたりにどれだけ仕事が閉じたか

を見る。

AIモデル選びは、牛丼のサイズ比較ではない。

安い並盛を4杯頼んで満腹にならず、高い定食を最後に追加したら、ただ注文回数が増えただけである。

結論:普段はSol、機械仕事はLuna、迷宮はAstra

2026年9月時点の構成なら、かなり単純化できる。

大量・明確・独立タスクはGPT-6 Luna。 普通のCodex作業はGPT-6 Sol。 曖昧で長く、複数系統をまたぐ難物はGPT-6 Astra。

そして最も避けたいのは、「Astraは高いから」と難物をLunaやSolで何度も回し、最後にAstraへ投げることだ。

高級モデルの価値は、回答1文字あたりではなく、迷子にならず仕事を閉じる確率と時間にある。

モデル選択で節約すべきなのはtokenだけではない。

人間の『また同じログ読んでるんだけど』時間も、ちゃんとコストである。

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