『アルプス一万尺』の小槍、子ヤギでも槍の先でもなく“ほぼ壁”だった

童謡・手遊び歌として知られる『アルプス一万尺』。『小槍の上で』は子ヤギでも武器の槍でもなく、槍ヶ岳近くの岩峰だった。実物を見ると童話どころかガチ登山案件だった話。

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「アルプス一万尺」の歌詞に出てくるこやり。

子どものころ、あれを聞いてこう思った人は多いはずだ。

子ヤギの上で踊るの?

あるいは、少し成長してからこう思った人もいるかもしれない。

槍の上で踊るの?

どちらにしても意味が分からない。

子ヤギの上で踊ったらかわいそうだし、槍の上で踊ったら危ない。
童謡・手遊び歌のテンションなのに、急に危険行為である。

ところが調べてみると、これは子ヤギでも、武器の槍でもなかった。

正体は、槍ヶ岳の近くにある「小槍」という岩峰である。

そして実物を見ると、さらにこうなる。

いや、山というよりほぼ槍やん。
いや、槍というより壁やん。
そこで踊るな。

「こやり」は子ヤギではなく小槍

「アルプス一万尺」の「こやり」は、漢字で書くと小槍。

槍ヶ岳山荘の説明では、小槍は槍ヶ岳、つまり大槍の左後方に見える岩峰とされている。さらに、小槍へ実際に登るにはロープによる確保が必要で、初心者にはかなりハードルが高い場所だという。

つまり、歌詞のイメージはこうではない。

  • 子ヤギの背中で踊る
  • 武器の槍の先で踊る
  • ハイジっぽい牧場で踊る

そうではなく、実態はこうである。

  • 北アルプスの高山帯
  • 槍ヶ岳近くの尖った岩峰
  • ロープ確保が必要なクライミング寄りの場所
  • そこで謎のアルペン踊り

急に難易度が上がりすぎている。

子どもの手遊び歌の顔をしているが、実態はかなり登山部寄りだ。

アルプス=スイスではなく、日本アルプスっぽい

「アルプス」と聞くと、まず思い浮かぶのはスイスアルプスかもしれない。

ハイジ。
ヤギ。
牧場。
ヨーデル。
緑の山。
やさしい風景。

だから「アルプス一万尺」も、なんとなくヨーロッパの山を歌っているように感じる。

しかし歌詞に出てくる小槍をたどると、舞台はスイスではなく、日本アルプス、特に槍ヶ岳まわりと考えるのが自然である。

槍ヶ岳は長野県・岐阜県にまたがる北アルプスの名峰で、標高は3180m。鋭く尖った山頂部が特徴で、北アルプスのシンボル的存在として紹介されることも多い。

実物の写真を見ると、名前の理由がすぐ分かる。

槍ヶ岳、ほぼ槍。

遠くから見ても尖っている。
近くで見ると、さらに尖っている。
山というより、地面から生えた巨大な槍である。

そこに「小槍」がある。

「小さい槍」という名前ではあるが、子どもが童話感覚で行く場所ではない。

童謡なのに、実態はガチ登山

「アルプス一万尺」は、子どもの手遊び歌として広く知られている。

しかし、「小槍の上で」という一節だけを見ると、かなりガチである。

普通の槍ヶ岳登山でも、上高地経由ルートは体力レベルが高く、2〜3泊以上が適当とされることがある。山頂直下にはハシゴやクサリ場もあり、岩場への注意が必要だ。

さらに小槍は、槍ヶ岳山荘の説明でもロープ確保が必要とされる場所である。

つまり、歌のテンションはこうだ。

さあ踊ろう

でも実態はこうだ。

まず登るだけで大変。
息が上がる。
岩場。
高所。
ロープ案件。
踊ったら普通に危ない。

「ハァ……ハァ……」と登ってきたあとに、そこで踊れと言われても困る。

童謡の顔をした、北アルプス高難度ジョークである。

原曲はアメリカ民謡なのもややこしい

さらにややこしいのが、メロディの由来である。

「アルプス一万尺」は日本の山の歌っぽい内容だが、メロディはアメリカ民謡「Yankee Doodle」系として知られている。

つまり構造としてはこうなる。

要素 中身
メロディ アメリカ民謡系
日本語歌詞 日本の山・登山文化寄り
アルプス スイスではなく日本アルプスの文脈
小槍 槍ヶ岳近くの岩峰
実態 童謡というよりガチ山岳ネタ

情報量が多い。

アメリカ民謡のメロディに、日本の登山っぽい歌詞が乗り、子どもの手遊び歌として広まり、今では「子ヤギの上?」と誤解される。

かなりカオスである。

なぜ「子ヤギ」と勘違いしやすいのか

「小槍」と聞いて、子ヤギを思い浮かべるのはかなり自然だと思う。

理由は3つある。

まず、耳で聞くと「こやり」と「子ヤギ」は近い。
特に子どものころは「小槍」という地名・岩峰名を知らない。だから、知っている単語で補完する。

次に、「アルプス」という言葉がハイジ的なイメージを呼ぶ。
アルプス、牧場、ヤギ。ここまで連想がつながると、「こやり」は子ヤギに聞こえやすい。

最後に、歌全体が子ども向けの手遊び歌として入ってくる。
まさかその中に、ロープ確保が必要な岩峰が出てくるとは思わない。

普通はこう考える。

子どもの歌なんだから、子ども向けのかわいい単語だろう。

しかし実際は違った。

子どもの歌なのに、急に槍ヶ岳。

罠である。

槍ヶ岳に登っている人でも、知らない人はいそう

面白いのは、槍ヶ岳に登ったことがある人でも、「アルプス一万尺」の小槍がここだと知らない人は普通にいそうなところだ。

登山者にとっての目的は、多くの場合、槍ヶ岳の山頂である。

上高地から槍沢を通る。
新穂高温泉から行く。
表銀座や西鎌尾根で縦走する。
槍ヶ岳山荘まで行き、最後の岩場を登る。

そういう登山計画の中で、「童謡の元ネタ回収」が主目的になる人は少ない。

しかも小槍は槍ヶ岳そのものではなく、大槍の近くにある岩峰である。
普通の槍ヶ岳登山者がそのまま登る場所ではない。

だから階層としては、たぶんこうなる。

  • 一般人:「子ヤギ?」
  • 少し考えた人:「槍の上?」
  • 山を知った人:「槍ヶ岳のことか」
  • 詳しい人:「小槍は大槍の左後方にある岩峰。ロープ確保が必要」
  • 実物を見た人:「ほぼ壁やん」

この順番で理解が更新される。

「童話の子どもが行く場所」ではない

改めて考えると、小槍は童話の子どもが気軽に行く場所ではない。

ハイジがヤギを連れて走り回るような牧草地ではない。
お花畑で寝転んで蝶々が飛んでくるだけの世界でもない。
登山装備も経験も必要な、北アルプスの岩場である。

歌詞だけ見ると明るい。

でも実物を知ると、急に絵が変わる。

アルプス一万尺。
小槍の上。
アルペン踊り。

この3つを真面目に並べると、かなり危険である。

そこは踊る場所ではなく、慎重に登る場所だ。

でも、だからこそ面白い

「アルプス一万尺」は、子どものころはただの手遊び歌だった。

意味なんて深く考えない。
リズムが楽しい。
友達と手を合わせる。
それで十分だった。

でも大人になって調べると、急に別の顔が見えてくる。

子ヤギではない。
槍の先でもない。
スイスの牧場でもない。
日本アルプスの槍ヶ岳まわりの岩峰である。
しかもロープ確保が必要な場所である。

このギャップが面白い。

童謡というのは、子ども向けに見えて、意外と由来や背景が複雑だったりする。
意味を知らずに歌っていた言葉が、大人になってから急に立体になることがある。

「小槍」もその一つだ。

子どものころは謎の単語。
大人になって調べると、ガチの山。
実物を見ると、ほぼ壁。

この更新感が楽しい。

結論:子ヤギではなく、踊っていい場所でもない

まとめるとこうだ。

「アルプス一万尺」の「こやり」は、子ヤギではない。
武器の槍の先でもない。
槍ヶ岳近くの岩峰「小槍」である。

そして小槍は、童話の子どもが気軽に登る場所ではない。
ロープ確保が必要な、かなり本格的な岩場である。

だから、あの歌は実質こういうことになる。

かわいい手遊び歌の顔をした、北アルプス登山ネタ。

実物を知ったあとに聞くと、もう前と同じようには聞こえない。

「さあ踊りましょ」ではない。

まず、息を整えた方がいい。

ハァ……ハァ……。


参考資料(4件)

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