推奨スラッグ: pitch-vs-timbre-vowels
音程は「音の中で最も高い周波数」ではない
人の声は、一つの周波数だけでできていない。
たとえば基音が220Hzの声には、おおむね次のような整数倍の成分が含まれる。
- 220Hz:基音
- 440Hz:第2倍音
- 660Hz:第3倍音
- 880Hz:第4倍音
440Hzを単独で鳴らせば、220Hzより1オクターブ高い音である。しかし、220Hz、440Hz、660Hz、880Hzが整数倍の関係で同時に鳴ると、耳は通常、それらを一つの220Hzを基礎とする音としてまとめて知覚する。
周波数が2倍になると1オクターブ上がる。この原則と、「低い音の中に高い倍音が含まれる」ことは両立する。
チューナーが同じ音名を表示しても、完全に同じ高さとは限らない
チューナーの大きな音名表示は、半音単位のカテゴリである。
たとえば「ド3」と表示され続けていても、その範囲内で次の差があり得る。
- 中心より20セント低いド
- ほぼ中心のド
- 中心より20セント高いド
半音は100セントである。音名が変わらなくても、DAMで金色になるかどうかに関係する細かなズレは残る。
したがって、母音を「い」から「う」へ変えたときに確認すべきなのは、音名の文字ではなく、針やセント値が動いたかどうかである。
音色は「同じ高さの音を別の音として聞き分ける特徴」である
同じ音程、同じ音量、同じ長さでも、ピアノ、ギター、バイオリン、人の声は異なる音に聞こえる。その違いが音色である。
音色には複数の要素がある。
- 倍音の強さの配分
- 音の立ち上がり時間
- 時間とともにどう減衰するか
- スペクトルの凹凸
- 共鳴帯域
- ノイズ成分
「明るい」「暗い」も音色の表現である。
音色の「明るさ」は高周波成分の強さと関係する
音響心理学でいう明るさは、単なる感想ではない。高い周波数側へどれくらいエネルギーが寄っているか、特にスペクトル重心と強く関係する。
- 高い倍音が目立つ:明るい、鋭い、硬い
- 高い倍音が弱い:暗い、丸い、柔らかい
ただし、音色は多次元であり、明るさだけで全てが決まるわけではない。
「い」と「う」は声帯の高さが同じでも共鳴が変わる
声の高さを作る主な音源は声帯振動である。その音を、舌、唇、顎、咽頭などからなる声道が加工する。
「い」と「う」では舌や唇の形が大きく異なるため、フォルマントと呼ばれる共鳴帯域が変わる。
一般化すると次のように感じやすい。
- 「い」:明るい、鋭い、前に出る、高そう
- 「う」:暗い、丸い、奥へ引く、低そう
ところが、チューナーのセント値が変わっていなければ、実際の基音F0はほぼ同じである。変わったのは主に音色である。
音色の変化を音程変化と混同するのは珍しくない
研究では、音程と音色は理論上別の知覚属性である一方、判断時に相互干渉することが確認されている。
特に、スペクトル重心が上がって音色が明るくなる変化を、音程が上がったように判断したり、その逆を起こしたりする。音楽訓練があっても、干渉が完全になくなるとは限らない。
したがって、「うにしたら半音下がったように聞こえたのに、測ると同じだった」という経験は矛盾ではない。
耳が検出したのは実在する変化である。ただし、その変化の種類を「音程」と誤分類した可能性がある。
母音には固有F0の傾向もあるが、「うは必ず半音低い」とは言えない
音声研究では、一般に高母音は低母音より固有のF0が高くなる傾向が報告されている。つまり、母音の調音とF0が完全に無関係というわけではない。
しかし、この傾向から「う口にすると誰でも半音下がる」とは言えない。
半音は100セントという大きな差である。母音変更時に実測で100セント近く落ちるなら、唇だけでなく次の動作が連動している可能性がある。
- 舌根を強く後ろへ引く
- 顎を閉じる
- 喉頭周辺を緩める
- 声帯の張りを下げる
- 声量や息の圧を急に落とす
一方、セント値が動かないなら、口形はDAM音程低下の主因ではない。
DAMが見る音程と、人間が感じる「高そう」は一致しない
DAMの音程評価は、歌声から推定した基音の動きを採点リファレンスと比較することが中心である。
音色が暗いだけなら、原則として「半音低い」とは判定されない。
ただし、母音変更時に次の問題が起きれば、間接的に軌跡へ影響する。
- 声が小さくなりすぎる
- 息声になり周期が不明瞭になる
- 母音切替時にF0が一瞬下がる
- 舌や顎の移動で発声が不安定になる
- 短い音で安定区間が作れない
問題は母音の暗さではなく、母音変更に伴う実際のF0や声の安定性の変化である。
耳を捨てるのではなく、耳と機械の役割を分ける
耳は次の判断に強い。
- メロディーが大きく違う
- 半音単位で外れている
- 音色が明るいか暗いか
- 声が苦しいか
- 表現が自然か
- 原曲と印象が違うか
機械は次の判断に強い。
- 10〜30セント程度の小さなズレ
- 音の頭だけの低下
- 語尾だけの低下
- 母音切替時の一瞬の変化
- 自分の内部感覚と外部出力の差
したがって、採点改善では「耳を信用しない」のではなく、「耳だけに数十セントの計測を担当させない」ことが重要である。
結論は「同じ音名でも音色は変わり、音色は高さの印象を動かす」
「い」と「う」で違って聞こえたこと自体は間違いではない。
- 音程が変わった可能性
- 音色だけが変わった可能性
- 両方が変わった可能性
の三つがある。
チューナーのセント値やDAM軌跡を使えば、その違いを切り分けられる。音名表示だけでは細かな判定には足りない。
