結論――追加漫画ではない。しかし、公式の隠しエンドと呼びたくなる配置である
『ちいかわ』8巻の特装版には、通常版と同じ漫画本体に加えて、
- 13種類のふせんを収めた大判のふせんブック
- 特製ノート
- ナガノ描き下ろしの箔押し収納BOX
が付属する。
講談社は、特装版の漫画内容が通常版と共通であること、そして文具には「手に取らないとわからない『ひみつ』の仕掛け」があることを公式に案内している。
その「ひみつ」の一つとして、ふせんブックの裏面には、
ヒトハとフタバとみられる二人が、それぞれ別の檻へ入れられ、隣り合った状態で海中へ沈められている構図
が置かれている。
したがって、以前のように「二人の処刑を示す絵は確認できない」と整理するのは誤りである。
正しくは、
- 特装版だけの追加漫画ページではない
- しかし、公式特典の最後に隠されたナガノの描写である
- 本編で宣告された刑罰が執行された後を示す絵として読むのが自然
となる。
物語は三段階で終わる
セイレーン編の結末は、媒体をまたいで段階的に開く。
第1段階:8巻本編
ヒトハとフタバは、元の島を離れ、二人だけで別の孤島へ移る。
この時点では、逃亡に成功したように見える。
第2段階:映画のエンドロール後
セイレーンと人魚たちが海を進む。
幼い観客には遊泳に見える。
前後をつないだ観客には、二人の逃亡先へ向かう追跡に見える。
第3段階:特装版ふせんブックの裏面
二人は別々の檻に入り、隣り合った状態で水中へ置かれている。
追跡は失敗していない。
二人は見つかった。
セイレーンが本編で示した刑が、実行されたと読める。
つまり、
逃亡
追跡
捕縛・刑の執行
が、漫画本編、映画の追加映像、物理特典の裏面へ分散している。
なぜ「裏面」であることが重要なのか
同じ絵でも、本編の途中に置かれるのと、付録の裏へ置かれるのでは意味が違う。
ふせんを使うためにブックを取り出す。
中身を見る。
最後に裏返す。
そこで、二人の刑が現れる。
物語を読み終えた後にしか、自然には見ない面である。
しかも公式告知は、その具体的内容を見せず、「手に取らないとわからないひみつ」とだけ言う。
この配置によって、絵は単なるグッズ用イラストではなく、
読了した人だけが物理的に到達する最終コマ
のように機能する。
漫画のページ番号は付いていない。
しかし、物語上の順番は本編より後にしか読めない。
そのため「公式の隠しエンド」「真エンドめいた補足」と呼びたくなる。
同じ檻ではなく、別々の檻なのが最もきつい
二人は一つの檻に一緒に入れられているのではない。
それぞれ別の檻に入り、その檻が隣り合っている。
この差は大きい。
一つの檻なら、
- 手をつなげる
- 触れられる
- 抱きしめられる
- 支え合える
可能性が残る。
遠く離れた檻なら、相手の姿さえ見えず、孤独だけが残る。
しかし、隣り合う別々の檻は、
- 相手がすぐそこにいる
- 生きていることはわかる
- 苦しんでいる姿も見える
- それでも触れられない
- 助けられない
という状態を作る。
完全な離別ではない。
再会でもない。
「一緒にいる」という願いの形だけを残し、その機能だけを奪う。
手をつないでいた二人への、最も悪辣な返答
映画では、秘密が露見する不安やセイレーンへの恐怖の中で、ヒトハとフタバが手をつなぐ。
二人にとって手をつなぐ行為は、
- 怖さへ耐える
- 相手がいることを確認する
- 一人ではないと確かめる
- 互いを守る
ための行動である。
事件の出発点も、ヒトハがフタバを助けたいという気持ちだった。
その二人を、最後には隣へ置く。
ただし、檻を分ける。
手を伸ばせば届きそうなのに、格子が阻む。
ヒトハは、フタバを救うために人魚を殺した。
その結果として得た永遠の身体で、今度は隣にいるフタバを永遠に助けられない。
これは単なる残酷な罰ではない。
二人の愛情と行動様式を理解したうえで、その意味を反転させた刑罰である。
不老不死だから、「そのうち終わる」がない
通常の拘禁なら、寿命が終わりを与える。
しかし、人魚を食べた二人は、単三電池で動くような身体になっている。
電池が交換され続けるのか。
電池が切れた後も意識が残るのか。
刑がどのように維持されるのか。
細部は明示されない。
それでも、セイレーンが「ずっと暗いところ」を示していた以上、刑の恐怖は期間の不明さにある。
死刑よりも悪い可能性がある。
死ねない。
触れられない。
隣にいる。
終わりが見えない。
人魚を食べて得た永遠が、二人の希望ではなく刑期へ変わる。
これは正義なのか
二人には重大な罪がある。
- 人魚を誘い出した
- 殺した
- 食べた
- 真相を隠した
- 島民が襲われても名乗り出なかった
しかし、セイレーンにも罪がある。
- 無関係な島民を襲った
- 捕らえた
- 漬けた
- 食べた
- 犯人へ終わりのない刑を科した
だから、この裏面を「悪人が相応の罰を受けた爽快な結末」とは読みづらい。
二人の罪は重い。
刑も重すぎる。
正義は実行されたように見える。
しかし、それを執行した存在もまた加害者である。
セイレーン編は最後まで、読者へ安心できる裁判官を与えない。
公式情報と現物描写の線引き
正確には、次のように分ける必要がある。
講談社公式サイトで確認できること
- 8巻はセイレーン編を完全収録
- 特装版の漫画本文は通常版と共通
- ふせんブック、ノート、箔押しBOXが付属
- 手に取らないとわからない「ひみつ」の仕掛けがある
実物のふせんブック裏面で確認されること
- 二人とみられるキャラクターが水中にいる
- 一つの檻ではなく、別々の檻に入っている
- 二つの檻は隣り合っている
- 本編で語られた刑の執行後と読むのが自然な構図である
断定しすぎない方がよいこと
- 漫画本編の正式な追加話である
- 刑が永久に続く具体的な運用まで確定している
- 二人の意識状態や、その後の救出可能性まで公式に説明された
結末の方向はかなり強く示される。
しかし、描かれていない細部まで埋める必要はない。
十分に最悪なので、追加で盛らなくてもよい。
読後に強まる術式の最終形
映画の商品は、上映後に意味が変わる。
しるこサンドは誘導を思い出させる。
赤魚の煮付は人魚の肉を連想させる。
セイレーンのぬいぐるみは、かわいい新キャラから捕食者へ変わる。
特装版も同じである。
ふせんブックは、最初はかわいい文具である。
中身を見て、使い方を考え、最後に裏返す。
そこで二人の最終像が現れる。
本を読み終えた後に、付録の裏面が本編を終わらせる。
上映後に強まる術式。
読了後に強まる術式。
そして、手に取って裏返した瞬間に完成する術式である。
