要約・結論
投資と若い時期の経験は、本来は二者択一ではない。衝突するのは「投資」そのものではなく、可処分所得のほぼすべてを投資へ回し、現在の生活に必要な消費まで削った場合である。固定費が低く、満足度の高い活動が低コストで、不要な見栄消費を選別できる人は、遊び・経験・投資を同時に成立させやすい。
資産形成を安定させる基本形は、投資収益だけに期待することではない。まず継続可能な仕事で基本給を高め、生活水準を必要以上に上げず、余剰資金を長期投資へ流す。若いうちは「労働収益」と「投資収益」の二本立てにした方が、元本不足を高リスク運用で補う必要がなくなる。
1. 「投資している20代は何割か」は定義で変わる
20代の投資率には、唯一の公的な正解があるわけではない。何を投資に含めるか、現在保有しているだけでよいか、一定期間に買付を行ったか、インターネット調査か金融機関集計かで数字は変わる。
2025年のネットエイジア調査では、20代1,000人のうち「現在、投資をしている」は26.8%だった。対象には株式、投資信託、暗号資産、実物投資、ポイント投資などが含まれる。一方、2026年のクロス・マーケティング調査では、20~39歳全体で資産運用を行っている人は39%で、20代男性は40%だった。調査設計が違うため、26.8%と39%を矛盾として扱ってはいけない。
NISAの口座数も「投資している人の割合」と同じではない。口座を持っていても、その年に買付がない人がいる。また、NISA以外の課税口座、企業型確定拠出年金、iDeCoなどで運用する人もいる。したがって、「NISA未利用が約8割」という表現から「20代の8割は一切投資していない」とは結論できない。
2. 投資している20代の金額は大半が小さい
同じネットエイジア調査では、投資中の20代が毎月回す金額の平均は24,610円だった。しかし、48.5%は月1万円以下、15.3%は1万円超~2万円以下、17.5%は2万円超~3万円以下であり、81.3%が月3万円以下だった。平均値は多額を投資する少数者に押し上げられるため、「典型的な人が毎月2万4,610円入れている」という意味ではない。
月1万円を積み立てた場合の概算は次の通りである。毎月末に積み立て、手数料・税金・インフレを考慮しない単純モデルである。
| 期間 | 元本 | 年3%の最終額 | 年5%の最終額 | 年7%の最終額 |
|---|---|---|---|---|
| 5年 | 60万円 | 約64.6万円 | 約68.0万円 | 約71.6万円 |
| 10年 | 120万円 | 約139.7万円 | 約155.3万円 | 約173.1万円 |
| 20年 | 240万円 | 約328.3万円 | 約411.0万円 | 約520.9万円 |
| 30年 | 360万円 | 約582.7万円 | 約832.3万円 | 約1,220.0万円 |
数年では利益は小さい。月1万円・年5%なら、5年後の利益は約8万円、10年後でも約35万円である。長期になると複利の比重が増えるが、利回りは保証されず、途中には下落もある。少額投資は短期で人生を変える魔法ではなく、長期間かけて将来の選択肢を増やす仕組みである。
3. 「昔ながらの消費をしない学生ほど幸福」の正しい読み方
広島大学の研究は、大学生269人に、若者が消費しなくなったとされる53項目への支出を尋ねた。因子分析では、パチンコ、ゴルフ、相撲、自動車などの「昔ながらの活動」と、映画、旅行などの「若者にも魅力的な活動」に分かれた。
結果は、前者にお金を使わない学生ほど幸福感が高く、後者にお金を使わない学生ほど幸福感が低いという相関だった。ただし、「ゴルフやパチンコをすると不幸になる」「映画や旅行をすれば幸福になる」という因果関係を証明したものではない。対象は大学生269人であり、支出の有無には、所得、好奇心、交友関係、生活環境、価値観などが影響する。
この研究から比較的安全に言えるのは、消費額の多さそのものより、本人にとって意味のある活動へのアクセスが重要だということだ。社会が標準的な大人の消費として提示する車、ゴルフ、酒席などに関心がなければ、使わないことは喪失ではない。一方、本当は映画や旅行を望んでいるのに、資金不足や無気力で諦めているなら、幸福感の低下と結び付く可能性がある。
4. 投資と経験を両立できる人の構造
両立しやすい人には、次の条件がある。
- 家賃、車、通信費、保険などの固定費が抑えられている。
- 散歩、読書、映像作品、創作、地域イベントなど、低コストで満足度の高い活動を持つ。
- 他人に見せるための消費と、自分が本当に望む経験を区別できる。
- 給料日に自動積立し、残った金で生きるのではなく、生活防衛資金と現在の楽しみを先に確保する。
- 投資残高の増加そのものを、安心、退出可能性、将来の自由時間として評価する。
「若い時の金は価値が高い」という主張は正しい。しかし、その価値は消費だけにあるのではない。若い時の1万円は、旅行、交友、学習、休養に使える一方、長い運用期間を持つ投資元本にもなる。重要なのは全部を一つに全振りせず、現在の生活、人的資本、金融資本へ意図的に配分することだ。
5. 若いうちは基本給の差が投資利回りより大きい
基本給が月3万円高ければ、額面で年間36万円増える。投資から毎年36万円を得るには、年5%なら元本720万円が必要である。月5万円の給与差は年間60万円で、年5%の元本1,200万円に相当する。もちろん給与には税・社会保険料がかかり、投資収益も非課税口座以外では課税されるため完全な同一比較ではない。それでも、若い時期は利回りを数%上げるより、継続可能な範囲で基本給と入金力を上げる方が効果の大きい場合が多い。
ただし、最高年収だけを追うのも誤りである。高給でも、長時間労働、長距離通勤、転勤、強い対人負荷によって継続不能になれば、収入は途切れ、回復消費も増える。見るべきなのは「基本給 × 継続可能性 × 自由時間 × 固定費」である。
6. 実務モデル
資産形成を「労働か投資か」の対立にせず、段階モデルで考える。
- 生活防衛資金を確保する。
- 消耗し過ぎず続けられる職場で、基本給と専門性を高める。
- 現在の満足に必要な予算を確保する。
- 余剰資金を自動で分散・長期投資する。
- 元本が育った後に、残業、異動、転職、休職、独立などの選択肢を増やす。
投資の役割は直ちに給与を代替することではなく、会社への依存度を徐々に下げ、交渉力と退出可能性を増やすことである。
