家賃500万円は「捨て金」なのか?――1〜2人暮らしなら、広い家より「必要な床だけ買う」が強い

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「これまで払った家賃の総額は500万円でした」と聞くと、数字だけで胃がキュッとなる。だが、そこで即座に「うわ、家を買えばよかった!」と結論するのは早い。500万円で10年住めたなら月平均約4.2万円、15年なら約2.8万円だ。長期間、雨風を防ぎ、設備故障や建物の大修繕リスクの大部分を大家側に持ってもらい、必要なら引っ越せる自由まで付いていたなら、むしろ「500万円しか払っていない」と見る余地がある。

住宅は「払った金が資産になったか」だけで採点するゲームではない。住むためのサービス、移動の自由、修繕リスク、土地の価値、最後に残る資産、そして使わない床まで含めて比較して初めて話が始まる。1〜2人で2DK程度あれば十分なのに、4LDKの2階が十年単位で高級物置になるなら、その床は資産である前に掃除対象だ。

主張

賃貸か購入かは「家賃は捨て金」「ローンは資産形成」という二択では決められない。特に1〜2人暮らしで広さをあまり必要としない人は、若いうちは安い賃貸で機動力を保ち、生活人数・勤務地・老後の希望が固まってから、小さめの中古マンションなどを買う戦略が合理的になりやすい。

ポイントは三つある。

  1. 累計家賃は、居住年数で割らないと意味が薄い。 500万円という大きな数字だけを見ても、それが5年分なのか15年分なのかで評価は別物になる。
  2. 持ち家の支払いの全額が資産になるわけではない。 金利、税、保険、仲介・登記等の取引費用、修繕、マンションなら管理費・修繕積立金などは、そのまま売却価値として戻るわけではない。
  3. 使わない広さにもコストがある。 「広いほど得」ではなく、「満足度を落とさず何㎡まで縮められるか」が住宅費を大きく左右する。

住宅は床面積選手権ではない。使わない2階を所有しても、トロフィーは届かない。

根拠

比較の基本形は、次のように置くと分かりやすい。

持ち家の実質コスト ≈ 購入価格 + 金利 + 税 + 保険 + 修繕 + 管理関連費 + 売買時の諸費用 − 売却時の残価

賃貸の実質コスト ≈ 家賃 + 更新・保険・引越し等の費用

その上で、頭金や購入資金を別の資産で運用できた可能性、転職・結婚・離婚・介護などで引っ越せる価値、逆に賃貸では高齢期に選択肢が狭くなる可能性などを追加で評価する。

「家賃500万円」の数字は、分母を入れた瞬間に顔つきが変わる

たとえば累計家賃500万円なら、

  • 10年居住:月平均約41,667円
  • 15年居住:月平均約27,778円

となる。これなら、地域や物件条件次第ではかなり低コストだ。一方、累計3,000万円なら話は違う。仮に30年間なら月平均約83,333円であり、購入した場合との比較をかなり真面目にやる価値が出てくる。

ただし、ここでも「家賃3,000万円=3,000万円の家を買えた」は成立しない。3,000万円の家を所有すれば、購入諸費用、住宅ローン金利、固定資産税、保険、修繕費などが発生する。最後に不動産の残価が残る一方、その残価がいくらになるかは立地、築年、管理状態、需給で変わる。

つまり、累計額だけを見て「燃えた金」と呼ぶのは、ホテル代を見て「建物が手元に残っていないから全部損」と言うのに少し似ている。家賃は居住サービス料でもある。

1〜2人なのに大きな戸建てを買うと「未使用床面積」を所有することがある

1〜2人で2DK、1LDK、2LDK程度で十分なら、広い戸建ての追加面積から得られる効用は小さくなりやすい。それでも面積が増えれば、購入価格だけでなく、掃除、冷暖房、外壁、屋根、防水、給排水、設備更新など維持の対象は増える。

2階をほぼ使わないなら、それは「資産価値のある空間」であると同時に「税金と修繕と掃除が付属する高級物置」でもある。一人しか乗らないのに毎日大型ミニバンを維持するようなもので、用途がある人には最高だが、用途がない人には過剰装備になりやすい。

中古マンションは「必要な床だけ買う」手段になりやすい

マンションでは、専有部分だけでなく、共用部分の持分や土地の共有持分・敷地利用権も含めて取得する。戸建てのように一筆の土地と建物を単独で丸ごと持つのとは違うが、1〜2人向けの40〜60㎡程度を選びやすく、ワンフロアで生活できるため、死蔵スペースを減らしやすい。

一方で「マンション=修繕不要」ではない。国土交通省の令和5年度マンション総合調査では、駐車場使用料等からの充当を除く月/戸当たり管理費の平均は11,503円、修繕積立金の平均は13,054円だった。単純合計で月24,557円、年約29.5万円である。また、長期修繕計画上の積立額に対して現在の積立額が不足しているマンションは36.6%だった。住宅ローン完済後も、管理費や修繕積立金は消えない。

したがって中古マンションは、「屋根や外壁の問題が消える商品」ではなく、「個人で抱える大規模修繕を管理組合という共同体で処理する商品」と考えた方が正確だ。

空き家900万戸でも「良い中古が全部タダ同然」にはならない

総務省の2023年住宅・土地統計調査では、全国の空き家は900万戸、空き家率は13.8%で過去最高だった。供給余力が大きいこと自体は、将来中古住宅を買う戦略に追い風になり得る。

しかし、空き家が増える地域と、駅・病院・スーパー・雇用に近い小型住宅の需要が残る地域は同じではない。人口減少局面では、住宅市場全体が均等に安くなるというより、便利で管理の良い物件と、修繕負担が重く移動にも不便な物件の差が広がる可能性がある。「空き家が多いから老後に激安物件を拾えば勝ち」は、宝箱を開けたら屋根修理見積書が入っているタイプのゲームになり得る。

具体例と比較

観点 安い賃貸 小さめ中古マンション 広め戸建て
1〜2人との相性 高い 高い 広さを持て余す場合あり
初期資金 小さい 中〜大 大きい
引越しやすさ 高い 低い 低い
最後に資産が残る 原則なし あり得る あり得る
大規模修繕 大家側 管理組合で共同 自分で負担
毎月の固定費 家賃等 管理費・修繕積立金等 税・保険・修繕積立を自前で準備
階段リスク 物件次第 ワンフロアを選びやすい 2階建てでは残りやすい
未使用床の発生 小さくしやすい 小さくしやすい 間取り次第で大きい
管理の自由度 低い 中程度 高い

「60歳くらいまで賃貸、その後に状況を見て中古を現金購入」という戦略も、魔法ではないが筋は通っている。若いうちは勤務地、家族構成、必要な広さが変わりやすい。後年になって1人なのか2人なのか、車が必要なのか、どの地域に住みたいのかが固まってから買えば、「未来の自分に必要か分からない4LDK」を先払いしなくて済む。

ただし、60歳という年齢そのものに特殊な力はない。50代で条件の良い物件が出れば買う選択もあるし、70代まで賃貸が快適なら急いで買う必要もない。重要なのは年齢ではなく、生活条件が固まったか、資金余力があるか、買う物件の管理状態が良いかである。

誤解しやすい点

1. 「家賃は資産にならないから全部損」

半分だけ正しい。家賃そのものは所有権にならないが、住居サービスと移動の自由を買っている。また、建物価格下落、大規模修繕、売却難といった一部のリスクを所有者側に移している。

2. 「住宅ローンを払えば、その分は全部自分の資産になる」

元本返済は持分形成につながるが、金利、税、保険、修繕、売買コストは別だ。そして建物・土地の市場価値は購入価格を保証しない。通帳から出た金が全員そろって不動産に転生するわけではない。

3. 「住宅は土地を買うのが本体だから、土地さえあれば強い」

方向性としては分かる。建物が経年劣化する一方、良い立地の土地は価値が残りやすい。ただし土地にも立地差があり、需要の弱い土地は安くなり得る。マンションでは土地は共有持分で、単独で切り売りできない。建物の管理、建替えの合意形成、修繕積立、総戸数なども出口価値を左右する。

4. 「小さい家なら㎡単価も必ず安い」

総額は下がりやすいが、㎡単価は必ずしも下がらない。キッチン、浴室、トイレ、玄関、配管などは40㎡でも80㎡でも必要で、固定的な設備コストがあるからだ。それでも、使わない40㎡を追加で買うより総支出を抑えやすいという話である。

5. 「空き家が増えるから、将来は何でも激安」

空き家の「数」と、自分が住みたい場所にある「状態の良い物件の価格」は別問題だ。安い理由が、立地、耐震性、管理不全、再建築制限、修繕負担だった場合、購入価格の安さは入口の値札にすぎない。

6. 「マンションなら維持管理を考えなくていい」

逆である。自分一人で屋根修理を手配しなくていい代わりに、管理組合の財務と合意形成を買う。管理費・修繕積立金の水準、滞納、長期修繕計画、過去の大規模修繕、議事録は、室内の壁紙より重要なことがある。

条件・例外

早めの購入が有利になりやすいのは、長期間同じ地域に住む見込みが強く、必要な広さや家族構成が固まり、物件の価格・立地・管理状態が良く、購入後も十分な現金余力を残せる場合だ。広い家、庭、騒音自由度、DIY、駐車台数など戸建て固有の価値を実際に使う人なら、戸建ては「過剰装備」ではなくなる。

逆に賃貸を長く使う合理性が高いのは、安い賃料で満足でき、転居可能性があり、1〜2人用の小さな住居で十分で、購入資金を流動資産として維持する価値が高い場合だ。

中古マンションを買うなら、内装の映えより先に次を確認したい。

  • 長期修繕計画は30年以上を見通しているか
  • 修繕積立金は計画に対して不足していないか
  • 管理費・修繕積立金の滞納は大きくないか
  • 過去の大規模修繕履歴と今後の予定
  • 管理組合の総会が機能しているか
  • 耐震性、給排水管、エレベーター等の更新見込み
  • 土地の権利形態、借地権の有無
  • スーパー、病院、公共交通へのアクセス
  • 売りたいときに次の買い手が想像できるか

国土交通省の管理計画認定制度では、管理組合の運営、区分経理、長期修繕計画、修繕積立金などが認定基準に含まれている。認定の有無だけで物件を決めるものではないが、管理品質を見るための補助線にはなる。

また「老後に現金一括」で買う場合も、全財産を壁と床に変換しない方がいい。購入直後に給湯器が壊れ、医療費が増え、引っ越しが必要になる可能性はゼロではない。現金一括は金利を消せるが、流動性まで消してはいけない。銀行口座を壁紙に変える必要はない。

結論

家賃500万円を見て「500万円を捨てた」と感じるか、「500万円で長年住めた」と感じるかは、居住年数と代替案次第だ。3,000万円まで積み上がれば購入比較の重要度は上がるが、それでも累計家賃と物件価格を1対1で並べるだけでは足りない。

そして1〜2人で2DK程度で十分なら、住宅戦略には大きな強みがある。広さを欲しがらない人は、住宅費を下げても生活満足度を落としにくい。 これはかなり強い。

若いうちは安い賃貸で自由を買い、生活条件が固まったら、小さくて管理の良い中古マンションなどを選ぶ。もちろん早期購入が勝つケースもあるが、「みんな家を買うから」「家賃は捨て金だから」ではなく、総コストと実際に使う床面積から決める。

必要な床だけ買え。使わない床は、資産である前に掃除対象である。

参考資料(4件)

比べてみる: AIは「分かっている人」しか使いこなせない?――本体は知識量ではなく、他社比較と「で、根拠は?」を詰める力だった

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