行政特区日本編の最大の事故は、ルルーシュの冗談である。
正確には、冗談そのものが悪意だったわけではない。ルルーシュはユフィと本気で敵対し続けるつもりではなくなりかけていた。むしろ、ユフィの善意と覚悟を受け止め、黒の騎士団として協力する可能性まで見えていた。
だからこそ、あの冗談が最悪になる。
ルルーシュは、ギアスの説明として、極端な例を出す。
もし自分が命じれば、相手はどんな不合理なことでも実行してしまう。たとえば、とんでもない命令でも、ギアスがかかれば逆らえない。
その例として出した命令が、よりによって最悪だった。
しかも、その瞬間にギアスが暴走する。
これは、システムで例えるならこうである。
本番環境で、
「たとえば全データ削除しろって命令したらさ」と言った瞬間、
本当にDELETE ALLが実行された。
しかも削除対象は、行政特区日本の公開式典に集まった日本人である。
なぜ最悪だったのか。
第一に、対象がユフィだった。
敵の兵士や無関係の誰かではない。ユフィは、ルルーシュにとって幼少期から知る大切な人物であり、ナナリーにも優しかった人であり、彼の中では「壊れる前の優しい世界」の象徴でもある。
そのユフィに、最悪の命令が入った。
第二に、内容が日本人対象だった。
もし命令が別のものなら、まだ止め方があったかもしれない。しかし行政特区日本の式典で、日本人を対象にした命令が入る。場、対象、言葉がすべて最悪の形で噛み合った。
第三に、ユフィには皇女としての権限と信頼があった。
ユフィが命じれば、周囲のブリタニア軍も動く。彼女の言葉は、ただの一個人の暴走ではなく、皇女の命令として現場を動かしてしまう。
第四に、公開式典だった。
群衆がいる。兵士がいる。カメラがある。黒の騎士団がいる。世界に見られている。密室で止められる事故ではなく、公開空間へ広がる事故である。
第五に、ルルーシュの初動が遅れた。
ここは視聴者としては強く思う。
追いかけろよ、と。
廊下は長かった。ユフィは退室して式典会場へ向かった。まだ物理的に止められる可能性があったように見える。
ルルーシュが取るべき行動は、理念でも謀略でもなく、単純だった。
走る。押し倒す。口を塞ぐ。銃を奪う。扉を閉める。護衛を混乱させる。非常事態を叫ぶ。とにかく会場に出すな。
本番環境で危険命令が走った瞬間なのだから、サーバーの電源を抜くしかない。
しかしルルーシュは硬直する。
もちろん、硬直する理由はある。
- ギアスが暴走した
- 一度かけた相手に上書きできない
- 相手がユフィだった
- 命令内容が最悪だった
- 行政特区日本が成立しかけていた
- 自分の冗談が原因だった
この全部が同時に来る。
ルルーシュは盤面なら天才である。しかし、身内、罪悪感、想定外事故、取り返しのつかなさが絡むと、一瞬、人間として止まってしまう。
シュナイゼルなら、おそらく即座に「拘束しろ」と言う。
ルルーシュは、そこで人間として固まる。
この差が痛い。
ルルーシュは冷酷ぶっているが、実際には情で揺れる。ユフィを物理的に傷つける決断も、即座にはできない。だから初動が遅れる。
そして、その一瞬で世界が終わる。
さらにひどいのは、その後である。
ルルーシュは、もう真相を言えない。
「自分のギアスが暴走して、冗談が本当になった」とは言えない。言えば、ゼロも黒の騎士団も終わる。ユフィの名誉も戻らない。行政特区日本も戻らない。
だからルルーシュは、ゼロとして処理するしかない。
ユフィを止め、ユフィを撃ち、ユフィの起こした惨劇を黒の騎士団の大義へ変える。
これは冷酷な政治判断であると同時に、人間ルルーシュとしては耐えられない現実の上書きでもある。
初恋だったかもしれない人を、自分の能力で虐殺皇女にしてしまう。その後、その事件を革命の燃料にするしかなくなる。
これが、行政特区日本編の本当の地獄である。
この記事のまとめ
- ルルーシュの冗談は悪意ではなかったが、状況・対象・命令内容が最悪だった。
- ギアス暴走により、説明用の極端な例がそのまま本番実行された。
- ユフィ、皇女権限、日本人、公開式典という条件が噛み合い、取り返しがつかなくなった。
- ルルーシュは追いかけて物理的に止めるべきだったが、罪悪感と相手がユフィであることにより硬直した。
- その後は真相を隠し、ゼロとして事件を利用するしかなくなった。
