日本で街を歩いていると、やたら大谷翔平を見る。
コンビニ。 自販機。 駅広告。 店頭POP。 お茶。 スポーツ用品。 雑誌。 テレビCM。 商業施設。 空港。 看板。
気づいたら、また大谷翔平がいる。
もちろん、大谷翔平本人が悪いわけではない。 むしろ本人は圧倒的にすごい。
ただ、広告を見る側としては、少し思う。
みんな大谷翔平を使ったら、差別化にならなくないか?
広告とは本来、自社の強みや違いを伝えるもののはずである。 競合と比べて、何が違うのか。 なぜその商品を選ぶべきなのか。 どんな独自性があるのか。
それを示すために広告がある。
でも、あまりにも多くの企業が同じスターを起用すると、消費者側からはこう見える。
「また大谷か」 「どこの企業の広告だっけ?」 「大谷は覚えているけど、商品は覚えていない」 「みんな応援していますって言っているだけでは?」
これは、大谷広告の横並び問題である。
大谷翔平は広告素材として強すぎる
まず、大谷翔平は広告素材として強い。
理由は分かりやすい。
- 世界で活躍している
- 成績が圧倒的
- 清潔感がある
- 努力のイメージがある
- 誠実そうに見える
- 老若男女に知られている
- 野球ファン以外にも認知されている
- 日本人の誇りとして扱われやすい
- スポーツ・健康・挑戦・世界進出の文脈に乗せやすい
- スキャンダルリスクが比較的低く見られやすい
広告主から見ると、かなり安全で強い。
尖ったタレントを使うと、好き嫌いが分かれる。 炎上リスクもある。 世代によって認知差もある。 社内稟議で説明しにくいこともある。
でも大谷翔平なら、通しやすい。
「世界で活躍する大谷選手を起用します」 「挑戦・信頼・誠実さを表現します」 「日本から世界へというブランド姿勢を伝えます」
こう言えば、かなり通りやすい。
つまり大谷翔平は、広告担当者にとって、
外しにくい巨大な好感度素材
なのである。
企業は差別化ではなく「好感度の傘」を買っている
ここで重要なのは、企業が必ずしも「大谷で差別化しよう」としているわけではないということだ。
もちろん、表向きには差別化を狙っている場合もある。
でも実際には、多くの企業が買っているのは、
大谷翔平の好感度の傘
だと思う。
大谷翔平には、すでに強い意味がある。
挑戦。 努力。 世界。 誠実。 爽やか。 信頼。 日本から世界へ。 圧倒的な成果。 二刀流。 歴史を変える人。
企業は、その意味を借りる。
自社の商品やサービスに、
「挑戦」 「信頼」 「世界」 「誠実」 「前向き」
といった印象を乗せる。
つまり、
大谷翔平を使って自社だけのエッジを示す
というより、
大谷翔平の意味を借りて、ブランドの印象を底上げする
に近い。
これは広告としては合理的である。
ただし、差別化としては弱くなりやすい。
「応援しています」は美しいが、みんな言うと弱い
日本企業の大谷広告には、どこか「応援しています」感がある。
世界で戦う日本人を応援する。 挑戦する人を応援する。 大谷選手の姿勢に共感する。 日本から世界へ羽ばたく姿を支える。
この文脈は美しい。
企業としても、悪いことをしているわけではない。 むしろ自然である。
でも、みんなが同じように「応援しています」と言うと、広告としては弱くなる。
なぜなら、それは企業ごとの差ではなくなるからだ。
A社も応援しています。 B社も応援しています。 C社も応援しています。 D社も応援しています。
となると、生活者からは、
「みんな応援してるね」 「で、あなたの会社は何が違うの?」
となる。
応援は共感を生む。 でも、応援だけでは選ばれる理由になりにくい。
大谷は覚えている。でも企業名は覚えていない問題
有名人広告でよく起きるのが、
タレントは覚えているが、商品は覚えていない
という問題である。
大谷翔平の広告を見た。 大谷がいたことは覚えている。 でも、それが何の商品だったか思い出せない。
これはかなりあり得る。
特に、大谷広告が増えすぎると、
「大谷広告」
という大きなカテゴリにまとめられてしまう。
お茶の大谷。 自販機の大谷。 スポーツ用品の大谷。 コンビニの大谷。 駅広告の大谷。 雑誌の大谷。
どれも大谷。
そうなると、ブランドごとの差が消えやすい。
生活者の記憶には、
大谷翔平がすごい
だけが残る。
でも広告主が本当に残したいのは、
大谷翔平が出ていた、あの会社の商品を買いたい
である。
ここにズレがある。
大谷広告は「外さない広告」であって「尖る広告」ではない
大谷広告を一言で言うなら、
外さない広告
だと思う。
大きく滑らない。 嫌われにくい。 社内で通しやすい。 幅広い層に説明しやすい。 好感度を借りられる。 ニュースにもなりやすい。
これは強い。
でも、外さない広告は、尖る広告とは違う。
尖る広告は、好き嫌いが出る。 でも、刺さる人には深く刺さる。 ブランドの思想や違いが残る。
外さない広告は、安心で広い。 でも、横並びになりやすい。
大谷翔平を使うこと自体が悪いわけではない。
ただ、大谷を使っただけで、
「うちのブランドは違います」
とはならない。
大谷は強い。 でも、ブランドの違いまで自動で作ってくれるわけではない。
なぜ企業はそれでも大谷を使うのか
それでも企業が大谷翔平を使う理由はある。
1. 認知を一気に取れる
広告はまず見てもらわないと始まらない。
大谷翔平がいると、目に入る。 「また大谷だ」と思っても、見てしまう。
認知獲得としてはかなり強い。