1. 問題の核心
ひとり親が一人で複数の子どもを育てた家庭では、現在の生活が成立していても、老後資金、古い住宅、車、医療、介護が後から家族課題として現れることがある。家があることと、換金可能な資産や十分な年金があることは同じではない。
2. 収入と養育費の現実
令和3年度調査では、母子世帯の母の平均年間収入は272万円だった。養育費を現在も受けている割合は28.1%で、「一度も受けたことがない」は56.9%だった。約15年前に近い平成23年度調査では、未受給経験なしの割合は60%を超えていた。
軽自動車、旅行なし、テレビ中心、古い持ち家という生活は、浪費の証拠ではない。むしろ限られた収入で家計を成立させるため、住居費と娯楽費を強く抑えた可能性がある。ただし、質素さは老後資産の十分さを保証しない。
3. 70代以降に出やすい負担
日常費が年金で回っても、車の買い替え、屋根、給湯器、水回り、家電、固定資産税、入退院では数十万から数百万円単位の支出が発生する。運転が難しくなれば、買い物、通院、行政手続きの実務も必要になる。
友人、配偶者、親戚が少なく、子どもだけが人間関係の中心なら、支援先も子どもへ集中する。遠方の高所得のきょうだいは金銭支援ができても、通院・送迎・見守りは近くの子へ偏りやすい。
4. 認知症は断定できないが、リスク因子は重なる
旅行しない、テレビを見るという一点だけで認知症は予測できない。しかし社会的孤立、身体活動不足、高血圧や糖尿病などは修正可能なリスク要因とされる。WHOは、認知症リスクの最大45%が修正可能な要因と関連し得ると整理している。
問題は診断予測より、生活機能が落ちたときに支援ネットワークがほぼ子どもしかないことである。
5. 介護は配偶者の家計にも波及する
介護を理由とする離職者は2022年に約10.6万人で、介護しながら働く人は約365万人だった。制度を使って両立できる人が多数いる一方、毎年約10万人は仕事を維持できていない。
娘が実務介護を担い、勤務時間を減らすか退職すれば、その配偶者が生活費、家事、送迎を間接的に補う。結婚前に同居、費用分担、施設費、実家処分、きょうだいの役割を確認するのは冷たさではなくリスク管理である。
6. 結論
立派に子どもを育てたことと、次世代の配偶者が未整理の老後負担を引き受けることは別問題である。親への支援はまず実子間で設計し、結婚相手には同意のない同居・扶養・介護を当然視しない境界線が必要になる。
