収益物件サイトを眺めていると、妙に築古が多い。表面利回り10%超の数字は並ぶのに、写真を見ると「この屋根、給湯器、配管、外壁が全員こちらを見ている気がする」となる。
そこで出てくる疑問がこれだ。
「だったら安い土地を買って、新築を建てて貸した方がよくない?」
結論から言うと、十分あり得る。ただし、新築は魔法の高利回り装置ではない。築古の「買った後に何が壊れるか分からないリスク」を、新築では「土地をいくらで仕入れ、いくらで建て、いくらで貸せるか」という計画段階のリスクへ移している。
つまり勝負は、建物の年齢よりも土地仕入れ・建築費・賃料・法規制を最初にどこまで読めるかに移る。
5秒で結論:新築は「高利回り」より「読みやすさ」を買う
築古と新築を雑に比較するとこうなる。
| 項目 | 築古 | 土地から新築 |
|---|---|---|
| 表面利回り | 高く見えやすい | 低く見えやすい |
| 初期の大型修繕 | 読みにくい | 比較的読みやすい |
| 設備故障 | 発生時期が集中することも | 当初は少ない |
| 賃料競争力 | 立地・改修次第 | 新築プレミアムを取りやすい |
| 最大の事故要因 | 隠れ修繕、空室、出口 | 土地高値掴み、工事費超過、賃料読み違い |
| 自分で作れる価値 | 改修 | 土地選定、設計、戸数、建築費、商品企画 |
新築が向いているのは、「最高利回りを当てたい人」というより、何が起きるか読めないのが怖い人だ。
なぜ収益物件サイトは築古ばかり見えるのか
理由は単純で、完成済みの収益物件市場には既存ストックが大量にあるからだ。
一方、土地から作る案件は、最初は「収益物件」ではなく「売地」「古家付き土地」「遊休地」「事業用地」として存在する。収益物件サイトだけを見ていると、完成品の棚しか見ていない。
大手不動産会社や建売会社は、完成品を買うだけではない。
土地を仕入れる → 法規制と接道を確認する → 必要なら造成・分筆する → 建物を設計する → 建てる → 売る、または保有する
という工程そのものを商品にしている。
だから利益の源泉は「土地が値上がりした」だけではない。使いにくい土地を、住宅ローンや賃貸市場で扱いやすい商品へ変えたことにもある。
それって地上げ屋? 似ているけど同じではない
小さな土地を複数の所有者から買い集め、権利を整理し、一体の開発用地にするなら、かなり「地上げ」「用地集約」に近い。
一方で、1筆の土地を買って建築可能性を確認し、新築アパートを建てるだけなら、普通は用地仕入れ+不動産開発の話だ。
違いは「何人から買うか」より、価値をどこで作るかにある。
- 1筆の問題を解決する:開発
- 複数筆をまとめることで価値を作る:用地集約の色が強い
- 建てて保有し家賃を得る:賃貸事業
- 建てて反復継続して売る:宅建業の論点が出てくる
最後の点は重要で、国土交通省は、営利目的で不特定多数に継続・反復して宅地・建物を売買する行為を「業として行う」ものとして扱っている。区画割りして複数へ売る場合なども含め、事業化するなら免許要否を先に確認した方がいい。
農地が激安に見える理由:「安い」ではなく「そのまま家を建てられない」ことがある
道路脇や住宅の間に畑が残っていると、「ここ安く買って建てればいいのでは」と考えたくなる。
ここで登場するのが農地転用だ。
農地を住宅、駐車場、店舗など農地以外へ変える行為を農地転用という。自分が持つ農地を転用するのが農地法4条、農地を買うなど権利移転を伴って転用するのが原則として5条の世界になる。
さらに、市街化区域内の農地では4条・5条の届出で扱われる制度がある一方、市街化区域外では許可制度が基本になる。農用地区域内農地や優良農地は転用が厳しく、市街地に近い第3種農地などは相対的に転用しやすい。
ここで最大の罠。
農地転用が通ることと、建物を建てられることは別問題だ。
市街化調整区域では開発できる類型が限定される。さらに建築基準法では、敷地は原則として幅員4m以上の道路に2m以上接する必要がある。
つまり、
農転PASS!
→ 家が建つとは言ってない。
が普通に起こる。
土地が100万円だから激安なのではなく、建築・転用・接道・上下水道・造成のどれかが難しいから100万円ということもある。
「使っていない土地を安く買う」は可能。ただし狙うのは年齢ではなく面倒
「昔から持っている人が使っていない土地を安く売ってくれないか」という発想は、方向としてはある。
ただし、狙うべきなのは「高齢者だから安い」ではない。
本当の仕入れ余地は、所有者が抱えている面倒にある。
- 相続したが使わない
- 遠方に住んでいる
- 草刈りだけ発生する
- 古家の解体が面倒
- 境界確定が面倒
- 残置物がある
- 売却手続を調べるのが面倒
- 子どもも土地を使う予定がない
そこで買い手が、測量・解体・片付け・手続の負担を引き受ける。
これは「誰かを買い叩く」というより、面倒を引き受ける代わりに価格条件を作る商売に近い。
不動産の利益は、情報格差だけでなく「面倒格差」からも出る。
農地転用が面倒なら、最初から農地を狙わなくてもいい
初めて土地から収益物件を作るなら、農地を外しても十分探索できる。
候補は例えば次だ。
- すでに宅地になっている安い土地
- 古家付き土地
- 解体前提の空き家
- 相続後に使われていない宅地
- 変形地
- 旗竿地
- 間口や駐車配置が悪く、一般の戸建購入者には敬遠される土地
古家付き土地は特に面白い。建物が資産ではなく解体費という「マイナス価格」になっている場合、土地単体より交渉余地が出ることがある。
農地転用は利益の源泉になり得るが、初手から行政手続ゲームを選ぶ必要はない。
利回りはどこまで出る? まず家賃から逆算する
ここからは仮想例で考える。特定地域の相場ではない。
1LDKを6戸、1戸あたり月6.5万円で貸せると仮定する。
6.5万円 × 6戸 × 12か月 = 年間満室賃料468万円
この468万円から、欲しい表面利回りごとに総事業費の上限を逆算するとこうなる。
| 目標表面利回り | 土地+建物+諸費用の上限 |
|---|---|
| 6% | 7,800万円 |
| 7% | 約6,686万円 |
| 8% | 5,850万円 |
| 10% | 4,680万円 |
ここで分かるのは、「土地を500万円で買えた!」だけでは全然勝ちが確定しないことだ。
建物、設計、造成、地盤改良、上下水道引込、外構、登記、融資費用、保険、募集費などを含めて全部でいくらになるかが勝負になる。
土地価格だけ見て勝利宣言すると、あとから工事見積が来て、
_人人人人人人_ > 利益消滅 <  ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
になりやすい。
表面7%でも、実際に7%残るわけではない
表面利回りは、満室賃料÷取得・建築価格のような簡単な数字だ。管理費、空室、固定資産税、保険、修繕などは消える前の世界にいる。
仮に総事業費6,600万円、年間満室賃料468万円なら、表面利回りは約7.09%。
さらに単純化して、
- 稼働率95%
- 実効賃料収入の20%を運営費として置く
とすると、実効賃料は約444.6万円、運営純利益は約355.7万円。総事業費に対する運営純利回りは約5.39%になる。
この20%は相場の断定ではなく、計算の仕組みを見るための仮定だ。実際は管理方法、税金、保険、共用部、修繕、地域で変わる。
つまり「築古12% vs 新築7%」を表面数字だけで殴り合わせても意味が薄い。
築古12%が修繕と空室で大きく削れる場合もあれば、新築7%が比較的安定して残る場合もある。見るべきなのは運営純利益と返済後キャッシュフローだ。
新築が怖くなりにくい理由:最初の数年を読みやすい
新築には、築古にはない安心材料がある。
国土交通省によると、新築住宅では構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分について10年間の瑕疵担保責任が制度化されており、賃貸住宅も「住宅」として対象になる。
ただし、これは「10年間、何が壊れても全部無料」の意味ではない。エアコン、給湯器、内装などすべての設備故障を法律が10年保証するわけではない。
それでも、築30~40年の建物を買って、屋根・外壁・給排水・設備の履歴を推理するところから始めるより、初期状態を把握しやすい。
怖さをゼロにするのではなく、見えない修繕リスクを減らしている。
ただし、新築の事故は「完成前」に集中する
新築投資の怖さは別の場所にある。
土地を高く買いすぎる
家賃は地域相場に縛られるのに、土地だけ高値で買えば利回りは簡単に崩れる。
建築費が膨らむ
本体工事だけでなく、地盤改良、擁壁、上下水道、外構、設計、確認申請などが追加される。国土交通省も建設工事費デフレーターを継続公表しているので、古い「坪○万円」の固定観念ではなく、実見積で判断する必要がある。
家賃を盛りすぎる
新築プレミアムで最初は取れても、2回目の募集では「新築」ではなくなる。完成直後の家賃だけで30年計算すると危ない。
戸数を詰めすぎる
容積率いっぱいに入れても、駐車場、動線、収納、防音、日当たりが悪ければ募集力が落ちる。
出口を忘れる
「ずっと持つ」も出口戦略だが、建物価値が落ちた後も土地として売れるか、別用途にできるかは最初に見る。
新築は安全なのではない。事故の種類が、修繕ガチャから計画ミスへ変わる。
「安定収益」を名乗るなら、このストレステストを通したい
満室時だけ黒字の物件は、安定収益ではない。
最低でも次を入れて再計算したい。
- 稼働率90%でも返済できるか
- 想定家賃が10%下がっても耐えられるか
- 金利が1~2ポイント上がっても資金繰りが崩れないか
- 建築費が10%上振れしても案件が成立するか
- 初回募集が想定より遅れても運転資金があるか
- 将来の外壁・屋根・設備更新を積み立てても残るか
借入返済前の利益だけでなく、年間返済額に対して返済原資がどれだけあるかを見る指標も使える。一般にDSCRと呼ばれる考え方だ。
「満室なら儲かる」から、「ちょっと事故っても死なない」へ計算を変える。
ここまでやって初めて、新築の安定性が数字になる。
土地を見る順番:値段は後ろでいい
安い土地を見つけたとき、最初に坪単価へ飛びつかない。
順番はこうだ。
- そもそも何が建てられるか:用途地域、市街化区域・調整区域、建ぺい率、容積率
- 接道できているか:建築基準法上の道路か、間口は足りるか
- 農地なら転用できるか:農地区分、農振、4条・5条、届出・許可
- インフラが来ているか:上下水道、電気、ガス等
- 造成が重くないか:高低差、擁壁、地盤
- 戸数と駐車場が両立するか
- その間取りの賃貸需要があるか
- 家賃を保守的に置いても利回りが残るか
- 金利・空室・修繕を入れても返済できるか
- 最後に土地価格はいくらまでなら買えるか
つまり、
「安い土地を探す」のではなく、「この事業なら土地にいくらまで払えるか」を先に計算する。
この逆算ができると、土地ポータルの見え方が変わる。
建てて貸すか、建てて売るかでゲームが変わる
土地から新築を作る案には二つある。
建てて保有する
家賃収入を取り、長期で返済する。自ら所有物件を賃貸する不動産賃貸業は、宅建業そのものとは別に扱われる。
建てて売る
売却利益を取る。これを営利目的で不特定多数へ反復継続して行えば、宅地建物取引業の免許の論点が強くなる。
完成済み新築一棟を買う場合、すでに売主側の開発利益が価格へ含まれている。土地から自分で作れば、その一部を自分側へ取り込める可能性がある。
ただし同時に、用地取得、設計、施工、融資、リーシングの実行リスクまで自分で持つ。
開発利益は無料ではない。面倒とリスクの給料だ。
結論:新築の強みは「利回りが高い」ではなく「リスクの正体を前に出せる」こと
築古の高利回りが怖いなら、土地から新築一棟を作って保有する発想はかなり筋が通っている。
ただし、答えは「新築なら余裕で儲かる」ではない。
本当の強みはこうだ。
- 建物状態を最初から把握しやすい
- 初期修繕を読みやすい
- 間取り・戸数・設備を需要に合わせられる
- 土地仕入れで自分の優位性を作れる
- 完成物件に乗っている開発利益を一部取り込める可能性がある
一方で、安い農地には安い理由がある。農地転用が通っても建築許可とは別。安い土地でも造成・接道・上下水道で利益が消える。
だから最初の一言を少し変えると正確になる。
「安い土地を買って新築すれば儲かる?」
ではなく、
「保守的な家賃から逆算した総事業費の中で、建てられる土地を安く仕入れられるか?」
ここまで計算できれば、築古物件の利回り表を眺めるだけのゲームから、自分で収益物件を製造するゲームへ変わる。
※本稿の利回り計算は仕組みを説明するための仮想例であり、特定地域・物件の収益性を示すものではない。実際の投資判断では、現地賃料査定、法規制、施工見積、融資条件、税務を個別に確認する必要がある。
参考資料
- 農林水産省「農地転用許可制度について」: https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukei/totiriyo/nouchi_tenyo.html
- e-Gov法令検索「農地法」: https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC0000000229
- 国土交通省「開発許可制度の概要」: https://www.mlit.go.jp/toshi/city_plan/toshi_city_plan_fr_000046.html
- 国土交通省「接道義務(建築基準法第43条)」: https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001890319.pdf
- 国土交通省「住宅瑕疵担保履行法 Q&A」: https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutaku-kentiku.files/kashitanpocorner/rikouhou/qanda2.html
- 国土交通省「宅地建物取引の免許について」: https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000242.html
- 国土交通省「宅地建物取引業 免許申請の手引き」: https://www.skr.mlit.go.jp/kensei/sangyou/02_hudosan/01-takken/manual/takken-manual.pdf
- 国土交通省「建設工事費デフレーター」: https://www.mlit.go.jp/statistics/details/t-other-2_tk_000362.html
