記事が増えたサイトの「気が利く探索」設計
記事が増えると、普通は「選べるものが増えた」と考える。
ところが読者側では、逆のことが起きる。
トップを開く。昨日と同じ記事。 数時間後に開く。また同じ記事。 一覧へ行く。ホイールを回す。 タイトルがビューンと流れる。 「いっぱいあるな」は分かる。 何があったかは覚えていない。
そこで「じゃあ6件だけ出そう」とすると、今度はその6件が刺さらなかった人がその場で帰る。
最後の砦として検索欄を置いても、読者はそもそも検索語を持っていない。
在庫はある。検索もある。おすすめもある。なのに、発見が起きない。
これは記事不足ではない。
サイトが読者の探索コストを肩代わりできていない問題である。
この記事では、トップ、一覧、検索を別々の部品としてではなく、一つの「発見エンジン」として考える。
0. 30秒版――倉庫を小さくするのではなく、店員を気が利くようにする
大量一覧がしんどい。
だから6件だけにする。
半分は正しい。
でも、その6件が外れたら終わるなら、巨大一覧の欠点を減らす代わりに、巨大一覧にあった偶然の発見まで消している。
必要なのは、
少数表示 + 次の方向をサイト側から提案すること。
「これじゃないなら実体験は?」 「比較したい?」 「仕組みを知りたい?」 「もっと軽いやつ?」 「全然違う話題へ行く?」
と、次の一歩を渡す。
ユーザーに「何を検索しますか?」と丸投げしない。
サイト側が『こういうの探してる?』と半歩だけ先に出る。
1. トップが「またこれか」になる――記事の新しさと、その人にとっての新しさは別
オンラインニュース推薦では、同じものを繰り返し見せると興味が落ちる「利用者疲れ」が研究されている。[1]
Bing Now の実ログ研究では、15件の推薦について、連続訪問が2時間以内だと平均11件が重複していた。過去に何度見せたか、どう反応したかをランキングへ加えると、全利用者で最大15%、頻繁に使う利用者で最大34%の改善が報告された。[1]
重要なのは「古い記事を消せ」ではない。
3か月前の記事でも、その人が初めて見るなら新しい。 10分前の記事でも、その人が今日4回見ていれば「またこれか」になる。
だから見るべきなのは、
記事そのものの新しさだけでなく、その人にとっての新しさ。
同じカードの露出回数、最後に見せた時刻、クリック有無、読了有無を持つ。
未見は出しやすくする。 何度も未クリックなら少し下げる。 読んだ記事の近くには別の記事を出す。
ただし「2回見たら下げる」などを普遍則にはしない。自分のサイトで、何回目から反応が落ちるかを測って決める。
2. 一覧が「情報」ではなく「流体」になる
一覧ページを縦に長くすると、理論上は全部見られる。
現実にはホイールやフリックで高速に流れる。
その瞬間、一覧は「比較できるカード群」ではなく「情報の滝」になる。
100件あっても、ちゃんと目に入ったのが8件なら、残り92件は倉庫にあるだけである。
ここで「記事が多いと選べなくなる」と単純化するのも危険だ。
2010年のメタ分析は50実験、5,036人をまとめ、選択肢過多の平均効果はほぼゼロだが研究ごとの差は大きいと報告した。[2]
つまり、
多いから悪いのではない。違いが分からない大量候補を、一度に比較させるのがしんどい。
一覧の仕事は「全部見せる」ではなく、探索中に現在地と次の方向を失わせないことである。
3. 「まず6件」は完成形ではない――6件を外した人をどう救うか
少数表示には利点がある。
一画面で比べやすい。 流し見に負けにくい。 カードごとの差も出しやすい。
でも欠点も明確だ。
その6件が全部外れたら、7件目に会う前に帰る。
だから6件は答えではなく、一回の「観測窓」と考える。
その横に、
- 別の6件
- もっと実体験
- もっと役立つ
- もっと軽い
- この話題を深掘り
- 全然違うもの
を置く。
2026年、ニュースサイト NU.nl の本番環境で行われた2週間の実験では、関連性を保ちながら推薦同士の似すぎを減らす手法が、クリック率と知覚された関連性を改善した。[3]
単純にカテゴリーを交互に出せばよいわけではない。
多様性は「バラバラ」ではなく、「似すぎないのに興味はある」状態。
4. 全件一覧は消さない――表玄関から倉庫へ移す
全件一覧は必要である。
前に見た記事を探す。 特定カテゴリーを掘る。 全部眺めたい。 日付順で確認したい。
そういう人には強い。
ただし「なんか面白いのないかな」で来た人に、いきなり全件一覧を渡すのは強すぎる。
「127件から選んで」ではなく、「127件の中から今よさそうなのを出した」にする。
全件一覧は、
「全部見る」 「細かく絞る」 「日付順で見る」
というパワーユーザー用の道として残す。
発見する場所と在庫を管理する場所は、同じでなくていい。
5. 検索欄の最大の弱点――検索語をユーザーに作らせる
サイト内検索は便利だ。
でも使うには前提がある。
何を探したいか、言葉にできること。
Google検索なら、雑に入れても何とかなると多くの人が学習している。
小さなサイトの検索欄には、その信頼がまだない。
しかも暇つぶしの人は、そもそも検索意図が固まっていない。
だから空の検索欄に、
「キーワードを入力」
だけ置いても始まらない。
Baymardの大規模検索UXテストでは、利用者は検索候補を単にそのまま送信するだけでなく、自分の検索語を作る出発点として頻繁に使っていた。[4]
つまり検索候補の価値は、文字入力の時短だけではない。
「何て検索すればいい?」を助けること。
6. 「気が利く検索」――記事タイトルではなく、検索意図を提案する
「仕事」と入力した人に、
- 仕事そのものが嫌
- 人間関係がしんどい
- 転職するか迷う
- 仕事を速くしたい
- 実体験を読みたい
と出す。
これは記事タイトルではない。
検索意図の候補である。
何も入力していない状態でも、
- どうすればいい?
- どっちにする?
- なぜこうなる?
- 実際どうだった?
- なんか面白いのない?
から始められる。
さらに記事を読んだ直後なら、
「次に比較するなら」 「仕組みを見るなら」 「反対の例を見るなら」
を出す。
検索欄を開いた瞬間に、さっき読んだ内容を踏まえた候補が出る。
読者「気が利くねぇ〜」。
2026年に高須幹弥のタピオカ動画の文脈で大きく流通した、あのネットミームである。[5] なお、言い回し自体の元ネタについては別の配信者側から起源主張も出ているので、ここでは「高須幹弥経由で広まったミーム」とだけ扱う。
大事なのはミームではなく、その反応が出る設計だ。
入力する前から、次の一手が少しだけ用意されている。
これが「気が利く検索」である。
7. 毎回AIを呼ばなくても「気が利く」は作れる
毎キー入力ごとに高価な生成AIを呼ぶ必要はない。
記事を作るときに、探索用の情報も一緒に作っておけばいい。
各記事に、
- 関連する検索語
- 困りごとの型
- 近い話題
- 似ているが違う話題
- 軽い/実用/深掘りなどの調子
- 読後に出そうな次の疑問
を保存する。
閲覧時は、
現在の記事
- 最近見せた記事
- 最近クリックした記事
- 未見の優先度
- 一覧内の多様性
から数件選ぶだけでよい。
生成AIは編集時に候補を作る。 本番では安い順位付けで回す。
これなら高速で、費用も小さく、なぜその候補が出たかも追いやすい。
8. トップ・一覧・検索を別々の島にしない
トップだけ高速回転。 一覧だけページ分け。 検索だけ高性能。
これでも三つが別々なら、読者は毎回ゼロから探し直す。
共有すべきなのは、
その人が最近何を見たか + 記事がどんな悩みや話題に対応するか + 何回見せたか。
トップでは「今日これどう?」を出す。 一覧では比較できる量に区切りつつ、次の方向を示す。 検索では空欄でも候補を出し、入力中は検索意図まで補助する。
三つを一つの探索状態でつなぐ。
9. クリック率だけを見ると、釣りタイトル工場になる
クリックが増えた。
成功。
これだけだと、最終的には強い煽りタイトルが勝つ。
見るべき流れは、
候補になる → 実際に画面へ入る → クリック → 記事へ到着 → ちゃんと読む → 次の記事 → 再訪
である。
さらに今回なら、
- 同じカードの1回目、2回目、3回目の反応
- 再訪時に前回と何件重複したか
- 「別の候補」の利用率
- 検索候補から検索した率
- 候補を少し編集して検索した率
- 検索ゼロ件率
- 高速スクロール後の離脱
- 最初の候補群でクリックしなくても探索を続けた率
- 一度も紹介されていない記事が露出を得た率
を見る。
特に重要なのは、
最初の6件で外れた人が、7件目へ進めたか。
10. 結論――「探してください」から「これ探してない?」へ
記事が増えたサイトは、いつか倉庫問題にぶつかる。
全部見せると流れる。 少なくすると外れる。 検索を置くと入力されない。 おすすめを固定すると飽きる。 個人化しすぎると狭くなる。
一つずつ見ると矛盾している。
でも役割を分けると整理できる。
在庫は多くていい。画面は少なくていい。次の方向は多くていい。検索語はサイト側が半分作ればいい。
巨大一覧の代わりに6件を置くのが答えではない。
6件の後ろに、気の利く次の一手を置く。
そこで初めて、記事数の多さが「情報過多」ではなく「発見の豊かさ」に変わる。
実装QC
- 同じカードを何回見せたか記録できるか
- 記事の新しさと、その人にとっての新しさを分けているか
- 少数候補が外れた後の経路が複数あるか
- 全件一覧を消さず、役割だけ分離しているか
- 空の検索欄でも探索を始められるか
- 検索候補が文字列だけでなく意図を助けるか
- 記事生成時に関連検索語や次の疑問を持てるか
- 未クリックを即「興味なし」にしていないか
- クリック率以外に読了・次記事・再訪を見ているか
- 未紹介記事へ探索枠が回るか
- 固定値を正解にせず、自サイトのログで更新できるか
出典
- Hao Ma, Xueqing Liu, Zhihong Shen (2016), User Fatigue in Online News Recommendation doi.org
- Benjamin Scheibehenne, Rainer Greifeneder, Peter M. Todd (2010), Can There Ever Be Too Many Options? doi.org
- Robin Verachtert, Kim Falk, Christine Bauer (2026), Enhancing Diversity in News Recommendations Increases Click-Through Rates doi.org
- Baymard Institute (2024), Always Copy the Active Autocomplete Suggestion to the Search Field baymard.com
- 2026年9月時点のネットミーム流通確認: 高須幹弥「気が利くねぇ」関連の公開投稿・動画インデックス。起源帰属は断定しない。
